
トランプ一家の暗号資産事業が米国で「銀行」へ UAE王族側が49%出資、USD1とAI半導体交渉をめぐり利益相反への懸念も
トランプ一家が関与する暗号資産プロジェクト「World Liberty Financial」が、米国で本格的な銀行事業への進出を進めています。
しかも、その銀行事業の背後には、アラブ首長国連邦(UAE)の国家安全保障顧問であり、アブダビ王族の有力者でもあるシェイク・タフヌーン・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン氏が大株主として関与していると、Wall Street Journalが報じました。
報道によれば、タフヌーン氏と共同投資家が関与する企業は、World Liberty Financialが銀行事業を保有するために設立した持株会社の**49%**を保有しています。
一方、トランプ一家と関係する法人は38%を保有しているとされています。
つまり今回の話は、
トランプ一家の暗号資産事業
×
UAE王族
×
米国の銀行免許
×
ステーブルコイン
×
AI半導体外交
が重なる、非常に政治的にも経済的にも重要な案件です。
World Liberty Financialが米国で銀行設立へ
World Liberty Financialは、トランプ一家が支援する暗号資産企業です。
同社は独自のドル連動型ステーブルコイン、
USD1
を発行しています。
そして米通貨監督庁(OCC)は2026年8月、World Liberty Financialによる連邦認可のNational Trust Bank設立について、予備的な条件付き承認を与えました。
この銀行の主な役割は、
- USD1の発行
- USD1の償還
- 準備資産の保管
- 顧客の暗号資産保管
などになる予定です。
つまりWorld Libertyは、
単なる暗号資産発行企業から、
ステーブルコインを自ら発行・管理する銀行事業者
へ進化しようとしていることになります。
USD1とは何か
USD1は、World Liberty Financialが発行するドル連動型ステーブルコインです。
基本的には、
1 USD1 ≒ 1米ドル
になるよう設計されています。
ステーブルコインを発行する企業は、発行したコインの裏付けとして、
- 米国債
- 現金
- 現金同等物
などを保有します。
World Libertyによると、USD1の準備資産も米国債などで運用されています。
記事掲載時点でUSD1の時価総額は約40億ドル。
その準備資産から発生する利息は、
年間約1億5,000万ドル
に達すると推定されています。
ここがステーブルコインビジネスの非常に重要な部分です。
ステーブルコインは発行量が増えるほど利息収入が増える
仕組みを単純化すると、
ユーザー
↓
40億ドル預ける
↓
USD1を受け取る
World Liberty
↓
40億ドル相当の準備資産を保有
↓
米国債などで運用
↓
利息収入
という構造になります。
したがって、
USD1の流通量が増えれば増えるほど、World Libertyが保有する準備資産も増える
ことになります。
そして米国債などから得られる利息収入も増加します。
記事では、
「USD1の発行量が増えるほどWorld Libertyが得られる準備資産収益も増える」
と説明されています。
これまではBitGoが準備資産を保管
これまでWorld Libertyは、USD1の発行にあたり、
BitGo
という別の信託銀行を利用していました。
BitGoがUSD1の準備資産を保管し、その利息の一部も受け取っていました。
しかしWorld Liberty自身が銀行を持てるようになれば、
この部分を自社グループ内へ取り込める可能性があります。
つまり、
USD1発行
↓
準備資産管理
↓
暗号資産保管
↓
利息収入
までを垂直統合できます。
これはWorld Libertyにとって大きなビジネス上の意味があります。
GENIUS Actが銀行設立を後押し
World Libertyが銀行事業に乗り出した背景には、米国のステーブルコイン規制があります。
記事によると、トランプ大統領は2025年7月、
GENIUS Act
に署名しました。
この法律によって、認可されたステーブルコイン企業が、自ら準備資産を直接保有できる道が開かれました。
World Libertyはこの制度を利用し、
自社のNational Trust Bankを設立する方向へ進んだとされています。
銀行持株会社の49%をUAE王族側が保有
今回最大の注目点が、
誰が銀行を所有するのか
です。
World Libertyは銀行事業を保有するため、
WLTC Holdings
という持株会社を設立しています。
その株主構成はWorld Liberty Financial本体と同じとされています。
Wall Street Journalによると、
タフヌーン氏と共同投資家側
49%
トランプ一家関連法人
38%
という構造です。
タフヌーン氏側は、
StringZ Holding RSC
という法人を通じてWLTC Holdingsに出資しています。
「Spy Sheikh」と呼ばれるタフヌーン氏とは
シェイク・タフヌーン・ビン・ザーイド・アール・ナヒヤーン氏は、
UAEの国家安全保障顧問です。
さらにUAE大統領の兄弟でもあります。
記事では、
個人資産および国家資金を含めた、
1.3兆ドル超
の巨大な企業・投資ネットワークを監督する人物と説明されています。
また、同氏はAI企業、
G42
を支配する人物としても知られています。
このG42が、今回の話をさらに複雑にします。
すでにWorld Libertyへ5億ドルを投資していた
タフヌーン氏側とWorld Libertyの関係は今回突然始まったものではありません。
WSJによると、2025年1月、
タフヌーン氏と共同投資家はWorld Liberty Financialへ、
5億ドル
を投資しました。
その見返りとしてWorld Libertyの49%を取得したとされています。
この契約が締結されたのは、
トランプ大統領就任の4日前
だったと報じられています。
さらに記事では、この5億ドルのうち、
2億6,300万ドル
がトランプ一家関連法人に流れたと、大統領の財務開示を基に報じています。
なぜ政治問題になっているのか
問題視されているのは、
外国政府の高官が、
現職米大統領の一家が関係する企業へ巨額出資している点です。
しかもWorld Libertyは現在、
米国政府から銀行免許を取得しようとしています。
つまり、
外国政府高官
↓
大統領一家関連企業へ巨額投資
↓
その企業が米政府から銀行免許取得
という構図になります。
そのため民主党議員や倫理専門家から、
- 利益相反
- 規制の独立性
- 国家安全保障
- 外国政府の影響
などへの懸念が出ています。
さらに問題を複雑にする「AI半導体」
ここで登場するのが、
AI半導体です。
タフヌーン氏が支配するG42は、UAEを代表するAI企業です。
2025年春、トランプ政権はUAEに対して、
数十億ドル規模の米国製AI半導体を購入できるようにする大型合意
を発表しました。
そのうち約5分の1がG42向けになる予定だったとされています。
一方で米政権内部では、
最新AI半導体がUAE経由で中国企業に流れる可能性を懸念する声もあり、一時的に取引が停止されました。
しかしその後、
2025年11月にはG42への半導体販売が承認。
さらに2026年7月には、少なくとも9か月間、購入できる半導体数に関する制限も緩和されたと報じられています。
「暗号資産投資」と「AI半導体外交」が同時進行
このため批判側は、
タフヌーン氏
↓
トランプ一家関連企業へ巨額投資
と、
米政権
↓
UAE・G42へのAI半導体輸出承認
が同時進行していることを問題視しています。
ただし記事では、タフヌーン氏側の関係者は、
World Libertyへの投資についてトランプ氏本人と話し合ったことはない
と説明しています。
またホワイトハウスも、
利益相反は存在しない
と否定しています。
したがって現時点で、
「半導体政策と投資の間に直接的な取引関係があった」
と証明されているわけではありません。
OCCは「職業官僚が審査した」と説明
銀行免許を審査するOCCも、この問題を意識しています。
World Liberty側は、
審査はOCCのキャリア職員によって、
法律、規制、政策上の基準に従って実施された
と説明しています。
OCC側も、
政府倫理の専門職員と協議し、
政府倫理基準を順守した
としています。
なお、World Libertyの銀行設立はまだ完全に確定したわけではありません。
予備的な条件付き承認であり、
最終的に営業を開始するには、
追加条件を満たしOCCの最終審査に合格する必要があります。
株主3社には「経営に介入しない」条件
OCCはWorld Libertyの銀行株主のうち3社に対して、
Passivity Commitment
と呼ばれる契約への署名を求めました。
対象は、
- トランプ一家関連法人
- World Liberty共同創業者関連法人
- StringZ Holding RSC
です。
この契約では、
経営判断へ影響を与えないこと、
銀行を支配しようとしないこと、
などが求められています。
記事によると、この種の条件が銀行免許申請で要求されるのは比較的珍しいとされています。
StringZ Holdingとは
タフヌーン氏側が銀行株式を保有するために利用しているのが、
StringZ Holding RSC
です。
この企業は、
2025年4月にアブダビ、
翌5月に米デラウェア州
で登録されたとされています。
WSJによると、StringZの背後にいるのがタフヌーン氏です。
OCCとのPassivity Commitmentには、
G42の元取締役が署名しています。
民主党議員は強く反発
この問題について、米民主党議員は強い懸念を示しています。
Elizabeth Warren上院議員は、
外国政府高官であるタフヌーン氏と、現職大統領が所有関係を持つ銀行免許申請者との金融関係は、
国家安全保障上の理由から失格要因になるべきだ
と主張しています。
また40人の民主党議員も、
- 外国資本
- 国家安全保障
- 規制の信頼性
- 政治的圧力
- 地政学的圧力
への懸念を財務省へ伝えています。
ただし、これらは民主党議員側の政治的・倫理的な懸念であり、不正が確定したという意味ではありません。
さらにBinanceとの関係も判明
World Libertyの銀行免許申請では、
Binanceとの関係についても新たな情報が明らかになったと報じられています。
非公開部分の申請資料には、
World LibertyとBinanceの提携契約が含まれていたとされています。
契約によるとWorld Libertyは、
USD1のマーケティング・プロモーション支援について、
Binanceへ料金を支払っていた
とWSJは報じています。
USD1の多くがBinance上で流通
Binance幹部は2026年7月、
BinanceがUSD1の重要な貢献者であると説明しました。
記事によれば、当時のデータではUSD1の約90%が、
BinanceおよびBinance系ブロックチェーン上で保有されていたとされています。
これに対しWorld Liberty側は、
現在Binance上にあるUSD1は、
65%未満
であり、比率は低下していると説明しています。
CZ恩赦との関連も議論される
Binance創業者Changpeng Zhao(CZ)は、
2023年にマネーロンダリング対策規則違反を認めています。
その後、トランプ大統領は2025年10月、
CZを恩赦しました。
このため、
World Liberty
↔
Binance
↔
CZ恩赦
という関係も注目されています。
ただしCZ側の弁護士は、
恩赦とビジネス上の決定には関係がない
と説明。
World Liberty側も、
恩赦について協議、仲介、影響を与えたことはない
と否定しています。
Binance側もWorld LibertyやUSD1を特別扱いしていないと説明しています。
このニュースで本当に重要なのは「暗号資産銀行」の誕生
政治的な部分が注目されますが、暗号資産業界から見るともう一つ重要な変化があります。
それは、
ステーブルコイン企業が自ら銀行を所有し始める可能性
です。
これまでは、
Stablecoin Company
↓
外部銀行・信託会社
↓
準備資産保管
という構造が一般的でした。
しかしWorld Libertyが目指しているのは、
Stablecoin
↓
自社銀行
↓
自社準備資産
↓
Custody
↓
利息収入
です。
つまり、
Crypto Company × Bank
という新しい金融モデルです。
USD1が拡大すればWorld Libertyの収益構造も変わる
USD1の時価総額が40億ドルから、
100億ドル、
500億ドル、
1,000億ドル
へ成長した場合、
準備資産もそれに比例して増えます。
その多くを米国債などで運用すれば、
利息収入も非常に大きくなります。
つまりWorld Libertyの最重要KPIは、
単純な暗号資産価格ではなく、
USD1のCirculating Supply
になってくる可能性があります。
まとめ
今回のWall Street Journalの報道を整理すると、
World Liberty Financial
↓
USD1を発行
↓
米国でNational Trust Bank設立を申請
↓
OCCが予備的条件付き承認
という流れがあります。
そして銀行持株会社の株主構成には、
タフヌーン氏側:49%
トランプ一家関連法人:38%
という関係があると報じられています。
さらに、
タフヌーン氏はUAE国家安全保障顧問であり、
AI企業G42を支配。
一方トランプ政権はUAEおよびG42に対して、
米国製AI半導体へのアクセスを拡大してきました。
そのため、
外国政府高官による大統領一家関連企業への投資と、米国の外交・安全保障政策との間に利益相反がないのか
が政治的争点となっています。
ただし現段階で、World Libertyへの投資とAI半導体政策の間に直接的な交換条件があったと証明されているわけではなく、ホワイトハウス、World Liberty、関係者はいずれも利益相反や不適切な関係を否定しています。
暗号資産業界から見ると、それ以上に注目すべきなのは、
World LibertyがUSD1を中心として「ステーブルコイン企業+銀行」という垂直統合モデルを構築しようとしていること
です。
もしこのモデルが本格的に動き出せば、
ステーブルコイン企業が、
発行、準備資産、カストディ、利息収入までを自社グループで管理する、
新しい暗号資産銀行モデルの一つになる可能性があります。










