以下は、記事「New Monetary Trilemma: CBDCs, Stablecoins and Tokenized Treasuries — Which Wins?」の日本語まとめ記事です。
2025年10月12日に公開されたこの記事は、「信頼をどうデジタル化するか」というテーマを軸に、今後の10年を決定づけるデジタルマネーの地政学・制度設計・倫理的課題を包括的に論じています。

新たな通貨トリレンマ:CBDC、ステーブルコイン、トークナイズ国債──勝者は誰か)
🧭 全体概要:信頼のデジタル化が問う新たな通貨トリレンマ
CBDC(中央銀行デジタル通貨)、ステーブルコイン、トークナイズされた国債(Tokenized Treasuries)は、いずれも「金融システムの新たな配管」を目指すが、その設計哲学・統治構造・社会的影響は大きく異なる。
この記事は、これら3つの形態が競合しつつも共存する未来を描き、「信頼(trust)」こそが最終的な通貨であるという結論に到達しています。
I. 中央銀行の解 — CBDC(中央銀行デジタル通貨)
CBDCは国家が発行するプログラム可能な「デジタル法定通貨」。
金融主権を維持し、社会的包摂を促す公共財として期待されています。
欧州中央銀行(ECB)の「デジタルユーロ」がその象徴であり、**ビッグテックや民間トークンの影響を抑え、誰もがアクセスできる“リスクフリーなデジタルマネー”**を目指しています。
しかし課題も多い:
- プライバシーと監視の懸念(誰が台帳を監視し、どの範囲まで権限を持つか)
- プログラム可能な通貨による“社会的操作”(支出制限・有効期限など)
- 政治的に重く、技術的にも複雑
米国ではトランプ2.0政権がCBDCを「監視マネー」として否定し、代わりに規制されたドル建てステーブルコインを支持。
一方、EUは主権強化のためにCBDC推進を進めるなど、明確な対照を示しています。
II. 市場の解 — ステーブルコイン
ステーブルコインは民間発行のドル連動トークンで、スピード・相互運用性・革新性が強み。
DeFiやクロスボーダー決済など、従来の銀行システムを超える効率性を持ちます。
米国では、USDCやPayPal USDなどの規制型ステーブルコインを「ドルの民間版輸出ツール」として活用し、
Clarity for Stablecoins Actなどを通じて「民間によるドル覇権維持」戦略を推進中。
ただしリスクも存在:
- 担保の質と透明性に依存し、脆弱な設計では“デジタル取り付け騒ぎ”の危険。
- 新興国ではドルステーブルコインが金融主権を侵食し、デジタル・ドル化を進行させる恐れ。
III. 利回りエンジン — トークナイズ国債(Tokenized Treasuries)
2025年の静かな革命。
これは米国債をブロックチェーン上でトークン化したデジタル証券であり、リアルタイム決済・透明性・低コストを実現。
BlackRockの「BUIDL Fund」、Franklin TempletonのOnChain Money Fund、Circleの準備金統合などが牽引。
すでに「実験段階」から「市場インフラ」へ移行中です。
特徴的なのは、通貨ではなく担保資産である点。
ステーブルコインの裏付けにトークナイズ国債を用いることで、
「支払いの流動性(ステーブルコイン)」+「利回りと安全性(トークナイズ国債)」の融合が進み、
“プログラム可能な金融”時代の土台となっています。
IV. 地政学的影響 — 通貨競争の新局面
- 中国:デジタル人民元(e-CNY)を一帯一路経済圏に拡大
- BRICS:資源・エネルギー取引用の共通トークンを模索
- 湾岸諸国:mBridgeプロジェクトでCBDCを石油取引に活用
- アフリカ諸国:ナイジェリア(eNaira)、ガーナ(eCedi)など包摂目的で試行中
結果として、「デジタル通貨の多極化」=新たな国際通貨秩序の断片化が進行。
V. インフラ・相互運用性・標準化競争
次なる覇権争いは「どのデジタル通貨が他のシステムと対話できるか」。
SWIFTのCBDC Bridge、ChainlinkのCCIP、BISのProject Icebreakerなどが標準化を競う。
2025年のデジタルマネーは、1995年のインターネット規格戦争のような段階。
支配的な相互運用レイヤーを確立した者が、次世代の決済を制することになる。
VI. プログラム可能性と監視の倫理
- CBDC:制御を最大化するが、プライバシーを損なうリスク。
- ステーブルコイン:柔軟だが、脆弱性と規制空白のリスク。
- トークナイズ資産:効率的だが、市場規律への依存が大。
つまり、「誰を信頼するか」ではなく「どの仕組みに信頼を組み込むか」という倫理的選択が問われる。
VII. グローバルサウスと「信頼の赤字」
新興国では、CBDCが包摂の手段になり得る一方で、
低いデジタルリテラシーや制度不信が普及を妨げている。
一方、アルゼンチン・トルコ・レバノンなどでは、ドル建てステーブルコインが“生活防衛の通貨”として急速に浸透。
この現象は、アクセスよりも「主導権(agency)」の問題—自国が価値を定義できるか否か—を浮き彫りにしています。
VIII. サステナビリティと環境効率
CBDCや許可制ブロックチェーンはエネルギー効率が高く、
EthereumのPoS移行でエネルギー消費は99%削減。
欧州のGreen DealやIMFの気候金融政策に沿って、
「デジタル×グリーンファイナンス」の統合が進行中。
IX. DeFiと伝統金融の融合
- トークナイズ国債がDeFi担保に利用される
- 銀行によるオンチェーンレポ取引(tokenized repo)実験
- 即時決済(T+0)・24時間流動性が現実化
→ 「コードで規制される金融(regulated by code)」が現実となりつつあり、
システムリスクの連鎖速度が新たな課題に。
X. 政策展望 — 多様性と規律の共存
各国の方針:
- EU:デジタルユーロとMiCA(暗号資産市場法)を進展
- 米国:小売CBDCは否定し、規制ステーブルコインを容認
- BIS・IMF:トークナイズ資産・相互運用性の国際基準策定へ
→ 「多元的だが統制のある」デジタルマネー共存体制が理想とされている。
🧩 結論:信頼こそが本当の通貨
CBDC・ステーブルコイン・トークナイズ国債は、排他的な選択肢ではなく相互補完的エコシステムの構成要素。
- CBDC:公共的裏付け
- ステーブルコイン:支払い流動性
- トークナイズ国債:利回りと担保
最終的な問いは技術ではなく道徳的なもの:
「誰を、そして何を信頼するか?」
— 国家か、市場か、アルゴリズムか。
それゆえに、お金の未来とは民主主義の未来そのものである。
📊 比較表(要約)
| 特徴 | CBDCs | ステーブルコイン | トークナイズ国債 |
|---|---|---|---|
| 発行者 | 中央銀行 | 民間企業 | 政府(デジタル化) |
| 目的 | 主権・包摂・政策管理 | 効率・流動性 | 利回り・市場近代化 |
| 裏付け | 国家保証 | フィアット・短期資産 | 国債 |
| リスク | 監視・中銀離脱 | ペグ不安・規制空白 | 法的不確実性 |
| 地政学的役割 | 国家主権 | ドル外交 | 制度的インフラ |
| 環境負荷 | 低 | 可変 | 中程度 |
| 未来の役割 | 公共マネー | デジタルドル代理 | トークナイズ金融の利回り基盤 |
🇬🇧 Digital Assets Week London 2025 の補足
2025年10月8〜9日、ロンドンで開催されたDigital Assets Weekでは、
政府・金融機関・技術者が集まり、トークナイズ資産とデジタル金融の未来を議論。
クリス・ホルムズ卿(英国上院議員)は「信頼と合意形成」の重要性を強調し、
「技術よりも“共通の基準と倫理”が正当性を生む」と指摘しました。
→ “スマートコントラクトではなく、共有された信頼が本当の土台”
という彼の言葉が、記事全体のテーマと響き合っています。











